【small talk】Learning from British Fashion.
2022.09.09
small talkは、「M(ムウ)」が発信するちょっとしたお話。例えばブランドの物語や物づくりの背景や関わる人々、私たちの身近なことから広く視野を広げていけるようにーー。
何気なく袖を通している洋服から、その世界の向こう側を覗きたい。今回は、イギリスが気になるという話。1990年代にKANGOLのハットが流行り、DR.MARTENSのブーツを買った。古着のヴィクトリアンブラウスに、憧れだったバーバリーチェック……、それらは全てイギリスからやってきたものだった。
私たちが今当たり前に身につけている既製服。貴族でも王族でもない庶民が既製の洋服を身につけられるきっかけとなったのは、18世紀後半に起きたイギリスの産業革命だ。それまでは手縫いの衣類が基本だったが、ミシンや紡績機の発明で工場で大量生産ができるようになり、上流階級の間でしか共有されなかった”トレンド”が、私たちのもとにやってきた。
当時流行していたのは、ふんわりとした袖にダーツウエストで強調されるシルエットのヴィクトリアンブラウス。その流行服を身に着けたイギリス人女性は”ヴィクトリアン・レディ”と呼ばれていたらしい。洋服の下にはコルセットを着用し、スカートは膝が隠れる長め丈。そのファッションから想像できるように、控えめで慎ましやかであることが良しとされた。
そんなファッションに警鐘を鳴らした女性が当時からいた。アメリカの女性解放運動家で服装改革を唱えたアメリア・ブルーマーだ。健康的・能動的に生きる女性たちのためにパンツルックを提案したが、広く女性たちのファッションを変えるに至らなかったそうだ。
産業革命が起きた18世紀後半から、さらに時を重ねて1960年以降。イギリスからは様々なファッションだけでなく、素晴らしい音楽が生まれた。The BeatlesにDavid Bowie、Led ZeppelinやThe Who、QUEENもThe Rolling Stonesだって……。ヘッドフォンをつけながら古着屋で、自分が好きなバンドのTシャツを探す。グラフィックが良かったら、ちょっとボロボロなくらいがちょうど良い。自分の好きな音楽をファッションに取り入れるのが楽しいと知ったのは、UKロックが日本で何度目かの流行を迎えていた1990年代後半だったような気がする。
既製服が着られるようになって200年以上が経った今。着たいのは、ダメージのあるバンドのTシャツ、履き古したデニムやクラークスと合わせるヴィクトリアンブラウス。その下はもちろんコルセットじゃない。体だけじゃなくて、何にも縛られたくない。女性たちのファッションは、開拓した先人たちのおかげで長い歴史をかけてより自由になったのだ。
photo / Miu Kurashima
text / FIUME Inc.