【small talk】Wear history and background.
2022.09.02
「歴史やストーリーのあるものを、身に纏いたい」
small talkは、「M(ムウ)」が発信するちょっとしたお話。例えばブランドの物語や物づくりの背景や関わる人々、私たちの身近なことから広く視野を広げていけるようにーー。
どうしてこの生地なのか、どうしてこの形なのか。洋服の背景には必ず歴史とストーリーがある。そのことを知ると、自分が手に取った洋服の向こう側に広がっている文化についてもっと知りたくなる。Mr.Cleanの店主・栗原道彦さんは、アメリカから買い付けた古着を通して、そんな服好きの好奇心を満たしてくれる。今回は、Mr. Cleanと一緒に作ったデニムの話。
古着屋「Mr.Clean」の店主・栗原道彦さんは、中学3年生のときにファッションやアメカジに興味を持ち、そこからずっとアメリカンヴィンテージ一筋。古着屋でバイヤーを務め、2011年にフリーランスとして独立。2018年に自身の店「Mr.Clean」を横浜にオープンし、翌年には富ヶ谷に移転・リニューアルオープンした。幅広く深い知識を持つ彼のセレクトは、業界内でも信頼が厚い。
「僕はアメカジをきっかけにファッションに興味を持ち、古着と出会いました。それからもずっとアメリカ物が好きな理由は、やはりそこに歴史や文化などの背景も含めた面白さを感じているから。古ければ古いほど、縫製やディテールなどの現代の物との差異が大きくなるのですが、それが進化、または退化していく過程に当時の歴史や文化がリンクしています」
(栗原さん、以下カッコ内は全て同)
栗原さんに「デニムを作りたい」と相談して提案されたのが、あえて裏地を表にして着られるようにした“リバーシブル”のアイディアだった。
「自分でも欲しいと思えるものを作りたくて、私物のジーンズで用いられているアイデアをサンプリングすることにしました。製造されたのは1960年代。インディゴではなく当時流行っていたサックスブルーのデニム(Leeではブルーファストデニム、Wranglerではブルーフェイドデニムと呼ばれていた)よりもさらに色がワントーン薄い。恐らく予算の問題で自社で独自の生地を製造できず、“有りものの生地を裏地使いする”という苦肉の策だったのでしょう。結果、他のブランドとは一線を画すものが出来ました。当時としてもかなり珍しいものだと思います。その独特の色が気に入っていたので、今回はそれを目指して、アメリカ製のリーバイス701(501のユース向けモデル)でウォッシュド(洗い加工がされて色落ちしたデニム)のレディースサイズのデッドストックを用いて、裏地使いをしようと思いついたんです」
そうして出来上がったのは、裏表どちらの表情も楽しめるリバーシブルな一枚。苦肉の策として生まれたアイディアが、60年以上の時を経て再現された。
栗原さんに最近のヴィンテージの流れを聞いてみると、「人それぞれの着こなしの幅が広がっています」と教えてくれた。
「ここ数年またデニムが流行している影響もあるのか、同じアイテム・モデルでも、ジャストサイズで履く人もいればオーバーサイズで履く人もいたりと様々。だからこそ以前と比べて大きいサイズまで買付けするようにしています。コンディションに関しても、デッドストックからクラッシュしているものまで幅広く揃えるようにしています」
歴史やストーリーのあるものを、今の気分で自由に着る。これまでもそうして新しいファッションが生まれてきたのかもしれない。Mr.Cleanからは、自分たちもそのファッションの歴史の一部になれるということを教えてもらった気がした。
photo / Miu Kurashima
text / FIUME Inc.