ADAM ET ROPE',アダムエロペ2022AW BEAUTIFUL CONTRAST

ある人に強烈に惹きつけられるとき、その要因となるのは表面的なものではなくその人となりに奥行きを感じたからではないだろうか。
相反する2つの要素を持つ美しさを、今を輝く表現者たちの言葉から見つけたい。

Vol.02 ハマ・オカモト(OKAMOTO'S) ミュージシャン/ベーシスト 「共感/距離感」

類稀なベーシストとして、OKAMOTO'Sのメンバーとして。そこにはハマ・オカモトのコントラストが息づいている。言葉にして伝えること、目に見えない距離感。その対比が合わさって、芸術性を表現している。

Photography
TATSUNARI KAWAZU (S-14)
Styling
TEPPEI
Hair & Make-up
GO TAKAKUSAGI (Vanites)
Design
KOICHI HACHIMAN (ARKHAM design)
Edit, Production
MANUSKRIPT
BEAUTIFUL CONTRAST

音楽を多くの人に伝えるために
音楽以外の自分を言葉で届ける

これは悲観的な意味じゃなく、音楽だけで音楽を伝えることに限界を感じることが多いんです。結成して12年目、音楽以外でどう自分たちに興味をもってもらうかを考えた時、やっぱりキャラクターって大事だなって。好きなバンドがいるのに、そのメンバーの名前を言えないって、結構ピリッとしますよね。「曲がかっこいいから」、「歌詞が共感できるから」と同じくらい「こういう人だから」って理由で好きと思われたい。演奏することと、おしゃべりすることのスイッチは違うけれど、結局は伴うって実感が今はあります。その辺のバンドよりベラベラ喋るので、それを好きになって音楽に盲目的になって欲しい。ベースのパートって聞こえにくいじゃないですか。でも、ベースを拾う耳を一度でも経験すると、そこから先はどんな曲でも追えるんですよ。聞こえ方が鍛えられると、音楽の解像度が高くなるんで、演奏するにも、何かちょっとした説明に共感してもらうことも大事かな、と思います。
生きてるだけでクレームきちゃう時代だから、素を見せるって難しいんですよ。そして、それがカッコ悪い時代もあっただろうし、今みんなが見せてるかと言えばそうでもない。でも、ドアノブが歪んじゃうくらい加工するSNSみたいなのがその代わりになるくらいなら、ラジオの生放送とかライブ中のMCとか、誤魔化しが効かないところで本質を知ってもらえたら、この先きっと、自分たちがやることを好きになってもらえるかな、と。しかもさっきまでペラペラ喋っていたのに、急に寡黙に演奏し始めたらかっこいいじゃないですか。そこはうちのメンバー、みんな器用にやれるんじゃないかな。

名前のない役割分担と適切な距離感が個人として、バンドとしての自分を形成する

もちろん中学生からの長い付き合いだけど、別々の人間だからバラバラっちゃバラバラ。OKAMOTO'Sのメンバー同士の立ち振る舞いの意識について話し合ったことはないけど、名前のない役割分担が存在しているんですよ。そういう阿吽の呼吸を踏み外さないから個にならないんじゃないかな。言葉にするのは難しいけど、みんなが自分を含めて俯瞰するというか、客観視するのがある程度上手にできるんでしょう。個人が合わさって集団になったときの力は絶対にあるので、誰かが爆発したエネルギーをマックス4乗させる瞬発力で動いているんだと思います。でも、僕はバンドメンバーのSNSをみてないし、誰と仲が良いかとか、あるタイミングから知るのをやめたんです。やっぱり長く付き合っていると割と同じ角度からしか物事が見えなくなる。知らないことを増やしたことで「こいつすごい」みたいな気持ちや「こんな歌詞書けるようになったんだ」とか、いろいろ新鮮に感じられるようになったし、シンプルに刺激になります。うちのボーカルが猫二匹飼ってるって、ツアー中のMCで初めて知ったくらい。ある日、突然学生の頃みたいに戻れる瞬間がたまにあるんですが、デビューした頃の映像を見ると今より個々の距離が近いんですよね(笑)
まだ30代前半なので、どう変わっていくのかな。すごく自分のこと客観視する性格だけど、それ故に客観的でないことに気づくようになった。やっぱり他人が見た自分が一番正しいと思うようにもなりました。頑固な20代だったんで、人から見える自分を受け入れる器を大きくしたいと思います。

音楽史を深掘りし、自ら演奏するそのバランスが新しい音色を作る

先輩というか、ベーシストとして亀田誠治さんはいろんな意味でパイオニアだと思います。2010年代に入ってからはNHK番組やご自身のラジオ番組でお話しされていて、プレイヤーとしても語り手としても、一ファンとしてとしてすごく憧れていました。(亀田さんが過去に「ハマ・オカモトさんがヴィンテージにリスペクトしながら自分の音色を大切にしている」というコメントに対して)新しいフレーズや、新しいコードはもう存在しないって言われてるんです。音楽って。その組み立て方でオリジナルを生み出すってことなんですが、どんな最新のヒットチャートにもその人が何を聞いて、影響を受けたか、みたいな歴史を辿るのが好きなんです。31歳の自分が経験してきたことは限られているけど、それ以前のものを汲んで表現していくってまぁ、重要だと思うんですよ。歴史の授業は全部苦手だったので何も覚えてないですが、その音楽版にはすごく感心があった。インターネットがあるから「若いのになんで知ってるんですか?」みたいな言葉は死語だと思うし、自然と探る作業が好きなんですよね。
亀田さんがずっと使われていた白い楽器とたまたま同じメーカーの白い楽器を使っていたんです。でも、よく見ると模様とかパーツの形がちょっとずつ違うのがわかって。なんでだろうと調べたら亀田さんのは1966年製で、僕のは2004とか5年製でした。その時に、初めて楽器にも歴史があるんだって興味をもって、図鑑を眺めたりして詳しくなっていきました。一方、新しいアンテナに関しては本当にポンコツで、今を生きている人間が昔のことに平均以上に知識や関心があって、演奏ができるっていう状態。例えば、いくら60年代の音楽が好きでも、この瞬間に鳴らす音は新しい。亀田さんにはそのコントラストがおもしろく聞こえているのかもしれないです。

PROFILE

ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)
1991年3月12日生まれ、東京都出身の日本のミュージシャン/ベーシスト。2008年、高校生の時にズットズレテルズを結成し、ライヴやイヴェント活動を精力的に行なう。
翌年の“閃光ライオット 2009”にファイナリストとして出演後、解散。その後、OKAMOTO'Sのメンバーとして活動。2010年5月、2ndアルバム『10'S』でデビューを果たす。
以降、OKAMOTO'Sを中心に、ベーシストとしての活動のほか、音楽誌のコラム連載やラジオパーソナリティとしても活躍する。

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